森のような農園
目指す農園まではかなりの道のりでした。協同組合の事務所兼加工工場から車を走らせること小一時間。途中からは舗装されていない細い道を行った先の小さな集落で車をおりました。小さな商店の前には人が集まっていて、道端に干した米を鶏が突っついているのに気を留める様子もなくおしゃべりしています。ここからは徒歩。さらにもう一つの別の集落を過ぎて、田んぼを横切り、小川を渡り、坂道を登ったところでようやく農園の入り口にたどり着きました。
農園主のジョセフに案内されて足を踏み入れた農園はまさに森。森の中を進みながら、これがバニラでこれは胡椒、これはランブータン、コーヒー、、、と教えてくれます。また、農園をどのように手入れしているかを丁寧に説明してくれました。確かに、よく見ると高木の枝は適度の光が農園に入るように剪定されているし、下草は綺麗に刈られています。ジョセフは、手にしている鉈一本でこれをやっているのです。
農園の中は、森林浴を楽しむ時のようにとても居心地がよかった。私は、彼の農園の美しさと、後に説明する協同組合の素晴らしさに感動し、ここの作物を日本に輸入することを決意しました。
アグロフォレストリの特徴
アグロフォレストリの大きな特徴は、複数の作物を同じ農園で同時に栽培することでしょう。例えば、パイナップルのような背が低い作物と、コーヒー、バニラ、胡椒などの中程度の背の作物と、ライチ、シナモンなどの高木を植えます。
そうすることで、いくつかのメリットが生まれます。まず、コーヒー、バニラ、胡椒などは、直射日光を嫌うので、高木のもとで育てるのが好都合です。わざわざ網などを施して日陰を作る必要はなくなります。また、いろいろな作物を同時に育てることで、年中収穫ができるようになり、一年を通して収入を得ることができます。それから、ある作物(例えばコーヒー)が不作だったり値崩れして、期待通りの収入を得られなくても、他の作物でそれを補うことができます。つまり、収入が安定するのです。
環境にも良いのです。アグロフォレストリでは、一般的な農園よりも多くのいきものが生息し、豊かな生態系が維持されます。農園ではたくさんの蝶やトンボが飛んでいます(豊かな生態系があるからこそ、農薬や肥料を使わなくても毎年ちゃんと収穫ができると思っているのですが、それは定かではありません。できれば、その因果関係をちゃんと確認したいと思っています)。
ただ、大変なことも多い。まずもって、手間がかかる。高木の剪定や下草刈り、病気や害虫が発生した時は手でそれを取り除かなくてはいけません。年中収穫があるのはいいのですが、その分、いつも農園に出て働かなくてはいけません。でも、農家の人たちはいい顔をしています。きっと充実した生活を送っているのだと思います。
<アグロフォレストリで栽培される作物たち>
協同組合で持続可能な農業を目指す
マダガスカルのバニラ産業については多くの課題が報告されています。イギリスでは大手メディアが児童労働やブローカーによる買い叩き、盗難などの犯罪を報道しています。一部の輸出業者などが大儲けしている一方で、農家は貧しい生活を強いられていると訴えています。協同組合の仕組みは、こういった問題を解決する可能性を大いに持っています。
組合は、農家が生産した作物を全て適正な価格で買い取るので、農家の収入は保証されます。一方で組合は、買い取った作物をそのまま、もしくは加工して国内で販売したり国外に輸出したりします。農家と加工/輸出業者(この場合は協同組合)の間に、ブローカーなどの仲介業者がいないので、組合は比較的安価に原材料を確保することができます。
加えて重要なことは、販売する製品がどこの誰によって栽培されたものなのかがはっきりしていることです(個人までを特定することはできませんが)。そのため、本当に無農薬、無施肥で栽培されていると、また、子供たちが働かされて栽培されたものではないと、はっきりとそう言うことができるのです。
とはいえ、協同組合にもまだまだ課題はあり、手探りしながら改善を続けています。奨学金制度などはそのいい例です。組合は毎年、若手の組合員を大学に送っています。若者は、大学で先端の農業を勉強して村に戻り、それを村に広める。そういった取り組みが始まっています。
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