アグロフォレストリー通信#26 種とりの翁

Kurumiru/ 6月 23, 2025/ アグロフォレストリー通信/ 0 comments

先日、何気なくyoutubeを見ていると、こんな言葉が流れてきました。「600種のタネを燃やす。」言葉の主は山澤清さん。山形県庄内町で長年かけて全国から貴重な在来野菜、伝承野菜のタネを集め、増やし、保存してきました。しかし現在F1品種の普及により、在来種の野菜が失われつつある現状があります。そんな現状を憂いてのタネを燃やすという宣言でした。

今市場に出回っている野菜、スーパーに並んでいる野菜はほとんどがF1種と呼ばれるものです。F1種とは異なる品種を交配させて得られる一代限りの雑種のことです。安定した品質や収穫量が見込めるため、現代農業で広く利用されています。例えば甘い品種と病気に強い品種を交配させると、甘くて病気に強いF1種が生まれます。F1種は見た目や大きさが均一な作物を得やすく、市場で同じ価格で出すことができるので大量生産に向いています。しかしF1種から採種した種子は親とは異なる形質を持つため、種子を自分で増やして継続栽培することはできません。さらには雄しべがない「雄性不稔」と呼ばれる形質もよくF1種の開発に使われます。その形質を引き継いだ植物は花粉を作れないため自分たちで子孫を残すことはできません。そのため毎年新しい種や苗を買う必要があります。

今は甘い=美味しいという価値観が広まっているけれど雑味や旨みも含めての野菜の美味しさ。野菜本来の美味しさも失われているとおっしゃっていました。

山澤さんは約40年ほど前から植物の種継ぎをしてきました。600種ものタネを継ぐには相当の労力と費用がかかります。山澤さんが高齢となり保管の維持が難しくなってきたことに加え、市場に並ぶのはほとんどがF1種。実際、在来種の野菜の方が味が濃くて美味しいのだそうですが、収穫量の多さや同じ規格の野菜を作ることができる効率の良さからF1種ばかりが市場には並びます。そんな社会のあり方に、ここでどうにかしなければという思いから自分の手で全て燃やしてしまうと冒頭の宣言をするに至りました。「止めたかったら俺に電話してこい」そう話す山澤さんの目には僅かな希望を未来に繋ごうとする意思が見えました。

また2023年には広島ジーンバンクという在来種、固定種の種子を収集、保存してきた施設が廃止されています。保存されていた種子は1万8600点。うち約6,000点は国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構に、135点は広島県農業技術センターに譲渡され、その他の種は希望者に配られたとのこと。しかし保存されていた全ての種子がどうなったのかは分かりません。廃止の主な理由は利用の低迷と施設の老朽化でした。1万8500点もの貴重な財産。国が予算をつけてでも守らなければならなかったものなのではないかと思いました。
資金面や存続の困難さを理由に食料の根幹であるタネがなくなっていくということは非常に危機感を感じます。「無くなったらもう取り戻せないんだから。失ってから気づくのでは遅いんだがらな。」と話す山澤さんの姿が印象的でした。

親から子へ同じ形質を持つ姿を繋ぎ続けるのが自然の姿。効率を求めようと人が手を加えること自体を否定するつもりはありません。ですが本来の形を取り戻す方法が失われつつあることには危機感を覚えます。

2025年6月23日
武田瑞季

前回のアグロフォレストリー通信#25植物と薬はこちらからご覧いただけます。

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