バニラの作り手に会うために協同組合のある村や農園、加工場を巡るときは、舗装されていない道をバイクで一日中走ります。その道中は、途中で土砂降りの雨に降られたり、ドロドロの山道を登ったり降りたり、筏に乗って川を渡ったりと、そう簡単なものではありません。レインフォレストバニラの生産者は、これだけ街から離れたところでバニラを栽培しているのです。このバニラが日本に届いて、パティスリーの店頭に並ぶケーキに使われることを想像すると、それが奇跡のようにも感じられます。

現地の複数の協同組合と取引をする加工/輸出業者の技術指導者、Ravearinalaに連れられて村々や農園を訪問すると、彼らとの信頼関係がしっかりと醸成されていることを感じます。お互いがお互いを尊敬しあっている関係です。このように協同組合と加工/輸出業者の間に良い関係ができているからこそ、高品質のバニラを安定的に生産できるし、僕の訪問も快く受け入れていただけるのだと感じます。これが、この奇跡が実現するための重要なひとピースなのです。

ここでは3人の生産者を紹介します。彼らの言葉から、そのことが少しでも伝わればと思います。

協同組合の創設者

数年前に数人の仲間たちと協同組合を立ち上げたErnest。協同組合設立の目的は、

  • 農園の管理をより効率的にすること
  • 作物の品質を改善させること
  • マーケットへのアクセスを容易にすること

現在この協同組合には40近くの農家が参加しており、非常にうまくいっているとのこと。これを支えるのが、技術的な指導を行ったりバニラを買い取るRavearinalaとその会社です。Ernestは将来的には近隣の農家をもっと巻き込んで、参加農家を100くらいにまで増やしたいと話します。

Ernestはすでに、その役割を次に紹介するNoerに引き継いで、今は農作業に専念していますが、相談役として今でも協同組合を支えています。

協同組合を設立メンバーの一人のErnest。現在も農業に勤しんでいる。

高い品質にこだわる

現プレジデントのNoerは、柔らかい笑顔が素敵な優しい男です。ミーティング中も子供が寄ってきて抱っこしながら話をしたりしていました。しかし、話出すと強い信念を感じます。さすが、プレジデントに選ばれただけのことはあります。

Noer曰く、「組合員を増やすためにも、供給先を確保するためにも、高い品質を維持することが肝心だと考えている。

品質が高い農作物→良い供給先の開拓・確保→組合員の増加→生産量の増加→供給先の確保。このいい循環を作りたい。」

現在抱えている一番大きな問題は、グリーンバニラの盗難。酷いところでは9割のグリーンバニラが農園から盗まれたというケースもあったそうです。収穫期になると、農園の中で寝泊りしたり、警備団を組織するなどしているが、真っ暗な中で広い農園を全て見回るのは不可能。なんとか盗難を防止するための方法はないか? と相談されました。日本には優れた技術があると思いますが、電気が通っていない、ネット環境も整っていない場所で、どこまで役立てられるか。しかも安価に導入、運営ができるか。そんなことを考えると、なかなかこれといった回答を返すことができませんでした。

農園を案内していただいた時の写真。立派に育ったグリーンバニラを嬉しそうに見せてくれるNoer。

協同組合に参加して良かった

きれいに管理された農園を案内してくれたのは、女性の農園主Veloiname。彼女の農園では、バニラの他にもクローブ、ライチ、アボカド、マンゴスティン、オレンジ、シナモン、コーヒー、ココヤシ、パイナップルなどが栽培されています。放し飼いにされた鶏の親子が森のような農園を歩き回る愛らしい姿も。大きなトカゲが草陰から顔を出した時はびっくりしました。農薬も肥料も使わないアグロフォレストリーならではの光景でしょう。

彼女は、バニラの栽培方法をもっと勉強したくて協同組合に参加したそうです。参加してよかったと笑顔で答えていました。協同組合が、バニラをはじめとしたアグロフォレストリーの農法を指導してくれるだけでなく、生産したバニラの全量を買い取ってくれるのですごく助かっているとのことでした。

「これからも立派な作物を育てて、もっとたくさん買ってもらえるようにしたい。」そう話してくれました。

インタビューの時は笑って話してくれるのに、カメラを向けるとなかなか笑ってくれないVeloiname
農園内を歩き回る鶏。ひよこは写真に撮れなかった!
拡大中の農園。手前はシナモンの若木。奥はライチの木
草陰からひょっこり顔を出したトカゲ
立派に実ったグリーンバニラ