Kurumiru/ 4月 22, 2024/ アグロフォレストリー通信/ 0 comments
食べ物や水、住居を生み出してくれる森。森と人とは長い年月をかけて関わり合いながらそこには文化が形成されていきました。森を開墾して焼畑をし森の中で農耕を行う焼畑民族。森をフィールドに鹿や猪など狩りを行う狩猟採集民族。人々の生業と森は深く結びついています。
ボルネオ島サラワク州には先住民族として、焼畑民族のイバン人や狩猟採集民族のプナン人など20の民族集団が公式に認められています。起源は1万年前〜数千年前に東南アジアの大陸部から移動してきた人々の子孫ですが、言語、生活様式、衣服、食、音楽、慣習、それぞれ似たところもありながら特有の文化を持っています。
とある学者がボルネオ島サラワク州の民族間での植物に対する知識を調査したところ、西プナン人は植物の知識を網羅的に持っていて、ロープなどに利用する樹皮、食料を包むのに適した葉など物質的に利用する種を多く分類していました。一方東プナン人は、植物全体の知識はそこまで詳しくなく、自分たちにとって利益のある、特に薬効がある植物にとても詳しく、同じ狩猟民族で言語も近いにも関わらず、両者の持つ植物の知識が全く違うということがわかりました。そして焼畑民族のイバン族は他の民族よりも食べ物として有用な植物に詳しく、綿の染色と機織りの伝統を持っていることからも他民族よりも多くの染色植物を利用しているということがわかりました。さらには民族によっては同じ植物でも使い方が違うこともあるというのですから、非常に興味深いです。また、呪術に対抗する植物や異性を惹きつける植物など、食用にできるか物質として実用的かどうか以外にも私たちには知り得ない植物の知識があることにワクワクさせられます。私も実際にイバン族の森を歩いてまわりましたが、彼らは実に多様な植物がある中でそれが食べられるのか、食べられないのかをよく知っていました。
これらのことから森林や植物の知識が食文化や暮らし、生活様式と密接に結びついていることがわかります。普段森の近くで暮らしていないと意識しませんが、動物や生き物だけでなく人の住処としても森というのは重要な存在です。森がなくなること、植物が少なくなることは、生物多様性の低下や、生き物の生息地の減少をもたらすだけでなく、そこに生きる人々の文化の消失につながる面もあるということです。
ボルネオ島では開発や近代化に伴い生活様式も変化してきています。環境の変化に対応し暮らしが変化したことで、伝統的な知が失われつつあるといいます。ある村では伝統的な知識のある人は年々減少し、伝統的な儀式をするためには別の村から儀式をしてくれる人を連れて来なければならないのだそう。生活様式が変化することは何も悪いことではないと思います。マサイ族が携帯電話を持つように、文化や生活は時代と共に変容するものです。しかし、森林との関わりや暮らしから長い年月をかけて積み重なり形成されていったその民族特有の知識と文化が、消失すると思うと非常にもったいないという気持ちと寂しさを感じます。
(引用参考「ボルネオ の里の環境学 変貌する熱帯林と先住民の知」市川昌弘 祖田亮次 内藤大輔 編)
2024年4月22日
武田瑞季
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