アグロフォレストリー通信#16 土地利用の歴史とアグロフォレストリー

Kurumiru/ 6月 25, 2024/ アグロフォレストリー通信/ 0 comments

アグロフォレストリー通信#16 土地利用の歴史とアグロフォレストリー

アグロフォレストリーとひとくくりにいっても、アグロフォレストリーになるまでの場所の利用のされ方にはいくつかのパターンがあります。マダガスカルには、元々森林だった場所を間伐して作られたアグロフォレストリーと、かつて焼畑農業によって焼かれ開墾された場所を再生して作られたアグロフォレストリーの大きく2つがあります。
今回はバニラが栽培されるマダガスカルのアグロフォレストリーがどのような効果をもたらすのか、土地の利用の歴史の観点から検証した論文を紹介します。

マダガスカルのアグロフォレストリーにて低木を支柱に実るバニラ。小柄な木をつる植物であるバニラの支えとして利用して、その上には背の高いさまざまな木が茂っています。

(1)人の手が入っていない原生林、(2)森林が断片的になった場所、(3)森林をアグロフォレストリーにした場所、(4)焼畑農業跡地をアグロフォレストリーにした場所、(5)焼畑農業後に自然に木々が生えた場所の5種類の場所で樹木の種類や構成を比較しました。

その結果森の密度は(1)〜(5)の順に高く、樹木の種類は全部の場所で見られた455 種の樹木のうち、229 種 (50%) が 2 種類のバニラのアグロフォレストリー(3と4)に生息し、そのうち 48 種は両方のアグロフォレストリーに生息、150 種は森林由来のアグロフォレストリー(3)にのみ生息していました。原生林が一番樹木の多様性が高いものの、森林をアグロフォレストリーにしたところでは森林にしか生息できない樹種が茂っており、生息地としての役割を担うことができるということがわかりました。また、焼畑跡地をアグロフォレストリーにした場所では、現時点では樹木の多様性は低いものの、時間の経過とともに森林をアグロフォレストリーにした場所と似てくる可能性が示唆されています。過去に森林だった場所が森林に近づいていくという点では生き物(この論文では鳥類)にとっても、良い方向に働いているということでした。また焼畑跡地をそのまま放置した場所よりも、樹木が土地を覆う速さが速くなり、劣化した土壌を改善して植物の成長を促進することもできます。

論文中のマガスカル北東部の世帯調査ではバニラのアグロフォレストリーの約30%は森林由来で、約70%は焼畑跡地由来でした。Co・En Corporation のバニラビーンズが作られているアグロフォレストリーも後者がほとんどです。原生林は原生林として残す必要があるものの、マダガスカルのバニラのアグロフォレストリーが焼畑農業跡地、耕作放棄地を再生するのに有効な手段であるということを示す調査結果でした。

人間も森を利用し収入を得ることができる、人と自然が共生するあり方としてあるマダガスカルのバニラのアグロフォレストリーが、環境の回復や生き物の住処として有効であることが学術的にも評価されたというのがとても嬉しく、素晴らしいことであると思いました。


参照「Land-use history determines stand structure and tree diversity in vanilla agroforests of northeastern Madagascar」

2024年6月25日

武田瑞季

前回のアグロフォレストリー通信#15 自然が子どもにもたらすもの はこちらからご覧いただけます。

 

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