マダガスカル訪問記2023 vol.5 | バニラの価格の変動とこれから

Coen.mg/ 10月 2, 2023/ つぶやき/ 0 comments

2017年〜2018年にかけて、マダガスカル産のバニラの価格は急騰し、現地での取引価格が600USD/kgを超えていました。この頃は銀よりも高価な香辛料としてよく報道されていました。この原因としてよくいわれていたのが、サイクロンによる収量の減少や中国等の新しいマーケットでの需要の拡大、そして価格高騰を見越しての投機的なお金の流入でした。しかし、本当の原因はどうだったのか、その後の価格の推移を見ていると、ますますよくわからなくなります。少なくとも、マダガスカルのバニラの価格は単に需要と供給によって決定されてはいないということは確実なように思います。そのため、価格の推移を予想するのが難しく、したがって事業を継続させることも難しいといえます。ここでは、マダガスカル産バニラの価格の推移とその理由、そして現在の急落と今後の見通しについて書きます。

バニラ高騰の理由

2017年の高騰の原因は、僕は次のように理解しています。ひとつは、サイクロンの影響です。2017年始に上陸したサイクロンがバニラの生産地に大きな被害をもたらしました。これによって生産量が3割ほど減ったとの報道もあります。バニラは実をつけるようになるまでに3年かかるといわれていますので、3年間は収穫量が減るということです。したがって価格は上昇します。とはいえ、当時の価格上昇は前年の5倍にまで達しています。ここまでの高騰は説明できません。次に考えられるのは、化学調味料・添加物への消費者の反発です。消費者の声を受けて、大手国際企業は軒並み化学合成された調味料や添加物をゼロにすることを宣言しました。2016年ごろのことです。バニラの香りのほとんどは化学合成された人工香料ですので、この宣言から、天然バニラの需要が高まると予想した人は多かったと思います。つまり、供給減と需要急増(との予測)が同じタイミングで来てしまったことが、価格高騰の引き金になったと考えます。また、マダガスカル現地では、国際取引が禁止されているローズウッド(希少な樹種)の違法取引によって得たお金をバニラでロンダリングしているという噂がまことしやかに語られていました。このような裏のお金も多く流入したと思われます。

マダガスカル政府の対応とその影響

2017年〜2018年にピークを迎えたバニラの価格ですが、その後急落することなく高値を維持しました。それは、引き続き需要が高く売り手市場が続いたからでは、実はありません。2019年から、マダガスカル政府が輸出の際の最低価格を設定していました。つまり、輸出業者はその価格よりも安く販売することができなかったのです。この政策は一見、バニラの生産者の収入を高いレベルで確保するために良く機能しているようにも見えました。また、バニラが外貨を稼ぐための重要な産業であるマダガスカルにとって、バニラの値崩れは国の財政に大きな影響を与えます。それを防ぐという意味でも賢明なものに見えました。でも実情はそうではありませんでした。

まず、生産者にとって。バニラの価格が高値で推移した期間、もちろんそれによって収入が激増した生産者は多くいました。新しい家を建てたとか車を買ったという話をよく耳にしました。一方で、盗難に苦しんだ人も少なくありませんでした。盗難の規模がとにかくすごかったのです。生産者にインタビューをしたときに、農園の半分のバニラを盗まれた…とか、ほとんどのバニラを盗まれた…といった話を何回も聞きました。生産者にとって経済的にも精神的にも大きなダメージです。生産者は盗難されまいと自衛団を組織したりして対策していました。また、成熟する前に収穫をしてしまう生産者も多かったようです。そのため、マダガスカル産のバニラの質が落ちたとも囁かれていました。いずれにしても、それほど大量の盗難されたバニラが目に見えないルートで加工業者に渡り、加工されて輸出されていたのだと思います。僕が目にした取引所でのグリーンバニラの価格は確かに高価でした。でも一方で、そうではない価格で取引されていたグリーンバニラも相当量あったはずです。

そしてもう一つの大きな問題は、この最低価格がちゃんと守られていなかったことです。つまり、法をすり抜けて、最低価格よりも安い価格で売り買いしていた企業があったということです。そこにはバニラだけではなくて汚職の香りもします。証拠はありませんので言い切ることはできませんが、公然とそのような噂が語られていますし、何よりも、日本で販売されているマダガスカル産と謳われているバニラの中には、最低価格が守られていたならばあり得ない価格で取引されているものもありました。僕らのように、また僕らのサプライヤーのように、フェアトレードであったり法令を遵守して取引をすることを是とする企業にとって、この状況はとてもアンフェアでやりにくい。さらには、僕らを信じてバニラを買ってくださっているお客様が不利益を被りかねない状況でした。だから、マダガスカル政府の政策が決して上策であったとは思いませんし、このような政府の市場への介入は基本的にない方が良いと思っています。

結果から見ても、それはやはり明らかです。2020年ごろから、マダガスカル国内ではバニラの在庫がだぶついているという話がありました。だから、いつかは価格が崩れるだろうと誰もが予想していたと思います。そしてそのときがついに来てしったというのが今年になります。

バニラの取引価格の現状

政府が最低価格を設定した結果バニラの価格は高値で維持されていたわけですが、その間、企業のバニラの調達先がマダガスカルから離れ多様化したといわれています。日本でもインドネシア産などマダガスカルではない国のバニラを目にする機会が増えたのではないでしょうか。いわゆる買い控えが起こっていました。この状況に、ついにマダガスカル政府がこの最低価格を撤廃します。これが2023年5月のことです。まさかシーズン途中のこのタイミングで撤廃されるとは思っていませんでした。だって、それまでに買った人は高値で、それ以降は最低価格を気にせずに売り買いできるわけですから…日本人の常識からすると無茶苦茶です。でも、実際にはこのくらいドラマチックに状況が変わるんですね。これがバニラビジネスの難しさだと思います。

とはいえ、実際には今シーズンはそれほど値崩れはしないと思います。それは、高値で購入した企業があるということもありますが、そもそも原料となるグリーンバニラが高値で取引されていたからです。もちろん、上述の通り盗難であったり、規制に従わずに取引されたものも多いと思われます。ただ、公には政府が設定した価格があり、その価格で取引されたグリーンバニラは相当量あったと考えられます。この価格で購入した加工業者は最終製品の価格をそれほど下げることはできないはずです。しかし、来シーズンはまた状況が異なります。

マダガスカルのバニラは基本的に、7月に収穫が行われ、そこから加工がはじまって、出来上がりは年末になります。今年はメインの産地での収穫時期が8月にずれ込みましたが、このときのグリーンバニラの価格は去年と比較してかなり安価なものでした。ちょうどこの時期に現地にいましたが、生産者たちの悲痛な声が聞こえてくるようでした。僕たちが取引をしている生産者はいわゆるバニラ農家ではなく、アグロフォレストリーで多種多様な作物を育てているので、この影響は緩和されている